学校が変わるICT実践研究 Sakyo

ICT支援員として各校で頼まれた仕事の中から、他校でも使えそうなアイデアやツールを紹介します

学校文書の電子化を考える(通信簿編その1)

1 はじめに
 生徒名簿、出席簿、卒業・修了台帳、通信簿、生徒指導要録、調査書…
 学校では、実に様々な文書を作成します。30年ほど前は、ほとんど手書きでしたが、今はパソコンで作成してもよい時代になりました。ただ、「これだったら、手書きの方が楽だった」という声が聞こえてくるケースもあります。
 そこで、どのように電子化を進めていけばよいのかを、まずは「通信簿」を例にして考えていきたいと思います。「通信簿」は、どこの学校でも作成する文書でありながら、名称からして「通信票」「通信表」「通知表」などと様々です。そして、その様式も学校の独自性があるため、近隣の学校でも割と違います。
 つまり、パソコンに堪能な職員がいるかどうかに関わらず、自校で何とか準備するしかない文書です。「通信簿の電子化」は、学校にとって避けては通れない道です。

 

2 電子化の類型及び所感
(1) 生徒個人ごとの枠(ワープロ表計算など)に直接入力するパターン(つまり生徒の人数分のファイルが存在します)
・メリット
a) パソコンが苦手な人でも分かりやすい。
b) 文章を直したり、フォントの大きさを変えたり、個人ごとのカスタマイズが
しやすい。
C) 年度更新などのメンテナンスがほぼ不要。

・デメリット
d) 学級担任の負担が増える。(コピーペーストの嵐)
e) 〇とかは、書いた方が速い。
f) 点検が厳しい。

 意外とメリットが多いので、ちょっと驚きました。
このケースで、ワープロの枠を使っている学校は、さすがにないと思います。たぶん、表計算ソフトのエクセルの枠を採用しているのではないでしょうか。
 また、学級担任と教科担任が、生徒個人のファイルに直接入力するのはなかなか危険
ですから、教科担任が成績を入力するための一覧表を別に用意し、学級担任がその表を
見ながら入力しているケースが多いと思われます。
 さらに、学級担任にしてみれば、まとめて作業した方が効率がよいため、所見の一覧
表や、総合的な学習の一覧表などを事前に作成し、コピーペーストしたり、表を見なが
ら入力したりしていることでしょう。
 ということは、このケースは「手書き」が「手入力」に代替されたものと言えます。


(2) エクセルのVLOOKUP関数の機能で、一覧表に入力したデータが参照される仕様になっているパターン

・メリット
a) 学級ごとに1つのファイルになっており、作業しやすい。
b) 同じ文章、似た文章をコピーペーストしやすい。
c) マクロを併用して、連続印刷などの機能を持たせることができる。

・デメリット
c) 特に「所見」などのように、項目の文字数が人によって違うとき、印刷用
シートのフォントの大きさを変更しないとはみ出すことがある。
d) 文章や評定を直すとき、一覧表の方を直さなければならないのが歯がゆい。
e) 悪意なく、まちがって関数を消してしまうことがある。
f) 年度更新のメンテナンスができる教職員がいないときに困る。
g) 作成者のセンスが問われる。
h) 点検が厳しい。

 たぶん、ほとんどの学校でこのパターンが採用されていると思われます。私の勤務校
でも、すべてこのパターンです。このパターンでよくある悩みが、デメリットの c) で
す。所見の分量が対象生徒によって増減するため、クラスで数人だけフォントを小さく
しないと欄に収まらないという現象が起きてしまいます。そして、フォントを小さくす
ると、今度はそれ以外の生徒の欄に余白がたくさんできて格好悪いという現象が起きて
しまいます。まさに「通信簿あるある」です。
 この対策としては、3通り考えられます。1つは、学級担任が文章作成能力を磨き、
必ず指定の文字数以内に収める方法です。もう1つは、斬新です。「所見」などの不定
長の欄を、通信簿から除く方法です。「そんなまさか?」という声が聞こえてきそうで
すが、実際に、通信簿から「所見」をカットし、代わりにPTAでの個人面談を充実さ
せる方法をとった学校もあります。その結果、何も問題は生じていません。3つ目は、
文字数に応じてフォントの大きさを変えるマクロを組む方法です。これはレベルが高い
し、きれいに収めるためにはかなりの試行錯誤が必要と思われます。
 デメリットの h) は、この方法でもありますが、VLOOKUP関数のおかげで、い
わゆる転写ミスだけはなくなります。しかしながら、デメリットの d) が重くのしかか
ります。やり直しが何回もかかるときは、「むしろ(1)のようにファイルを直接直し
た方が簡単なのに…」と思うかもしれません。
 デメリットの g) は、作成者がよく肝に銘じておくべきと考えます。学級担任の中に
は、「パソコンが苦手、ワープロならともかく、表計算ソフトなんて無理」という人も
当然いると想定して、ソフトを作りましょう。見た目がもう難しそうなのはNGです。
 ただでさえ、エクセルには、「画面上の見た目と印刷結果が違う」という致命的な弱
点(初心者いじめ)があります。「初心者にも分かりやすいソフト」を作ることは、大
事なことです。

 最後にこの方式を使う上で、工夫したい点を3つ挙げておきます。
① エクセルの「シートの保護」機能を使って、関数が消されないようにする。
② 1行に何文字まで入力できるか、セルに何行まで書けるかなどの情報を示す。
「Alt+Enter」で改行できることなどもファイル内に示す。
② 観点別評価と評定の整合性を関数でチェックできるようにする。

 

(3) 上のどちらでもない方法。
 ほとんど無名ですが、「コピーくん」というエクセルソフトがあります。「コピーく
ん」は、一覧表から個人ごとのファイルにデータをコピーしてくれるソフトです。任意
の一覧表から任意の様式にデータをコピーすることができます。マクロで動作していま
すが、マクロが分からなくても使用できます。コピー元のブック名、シート名、セル番
地と、コピー先のブック名、シート名、セル番地を指定して、ボタンを押すだけで、人
数分の個人ファイルが作成されます。作成された個人ファイルにデータを追加書込する
こともできます。

・メリット
a) 仕組みが分かれば、何にでも対応できる。
b) 個人ごとのファイルを直接直すことができる。
C) 追加書込が便利(要録のように複数年度をまたがってもOK)。

・デメリット
d) コピーくん本体以外(一覧表や様式のファイル)が結局大事。
e) 直すときに一覧表の方を直してコピーくんをかけるか、作成された個人ファ
イルを直すか見極めが初心者には難しい。
f) ファイルが複数になる。

「コピーくん」は、平成23年度に秋田県の一人の教員によって作成されました。「コピーくん」「まとめて印刷くん」「まとめてリネームくん」の3本セットで指導要録作成にも対応しています。シート名やセル番地を正しく指定する能力があれば、自分ではマクロを組めなくても、電子化プログラムを作成できる汎用ソフトです。

 

3 おわりに

 今回は、学校文書の電子化のうち、通信簿について考察してみました。現状からいえ
ば、エクセルVLOOKUP関数が主流ですが、地区や学校によって完成度には差が見
られるようです。いずれにせよ通信簿作成は、担当者が本来の業務でもないのに厚意で
作成しているケースが多いと思われます。しかも…。本当にご苦労様です。